自閉症の療育方針について
言葉がなく、異常な行動を繰り返していた自閉症の息子が2歳になったときから家庭療育を開始しました。そのときに療育の参考にしていたのが、以下の論文(抜粋)でした。
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・典型的な自閉症状を初期に呈していた幼児が、その後の発達過程の中で健常とも言えるような状態にまで成長したケースが少数だが認められ、驚いた経験がある。
・自閉症発達改善例4人・・・、どの子も自閉症と診断された時期は早く、3歳前には保健所や療育センターなどで早期療育が開始されていた。現在は4人とも小学校高学年になっており、普通学級に在籍し他児と一緒に集団生活を楽しんでいる。
・4人の子どもたちの発達経過を詳細に検討すると、親や療育者の積極的な関わりによってまず親子間や療育者との間で情緒豊かなコミュニケーションが回復していることが分かる。それと同時に興味関心の偏りが減弱したり解消していく。その上で、関係性のとれた親や療育者からさまざまなことを学び、さらに、健常児集団の中でより細かな情緒と言語認知機能を豊かに発達させているのである。・・・それは、自閉症の予後の一つのパターンとして相互交流ができるようになる一群があるということではなく、他者からの積極的な関わりが基点になって他者と自閉症児の間で発達促進的な交互作用が効果的に働いた結果生じた個別性の高いものだからである。
・4人のこどもたちには、親や療育者が深く関わる中で、対人関係面ではさまざまな行動の変化が認められている。最初は、親や療育者との関係が深まり強い依存的状態ができるが、ある程度の時期になると自分を意識して自己認識が始まり、その頃から今度は反抗やよりつよいしがみつきが認められる。同時に、他児への興味関心が見られ始め、自分が経験したような他者との関係を、他児との関係に置き換えるようになる。例えば、自分より年下の障害児の世話焼き行動などである。さらにその後、健常児集団の中で気後れ、くやしさ、恥ずかしさなどの情緒的体験を繰り返し、自己認識が更に深まっていく。それと同時に、他児の行動や言語の模倣と取り入れが起こる。その後も、幼稚園への入学や担任の交代の時期などに対人不安が強まると一時的にこだわりが悪化して発達が停滞する時期もあるが、この時も自分が信頼する他者の行動を取り入れたり同一化してこどもたちは困難を乗り越えて行く。このような一連の自閉症児と他者との交互作用がすべて発達促進的と言えるのである。
・筆者が経験した発達改善例のこどもたちはどのこどもも概ね3歳前に診断が告知され、積極的な親や療育者による適切な治療的介入が早期から行われていた。脳の可塑性や代償性が高い乳幼児早期に治療的介入を開始することは、早期療育による自閉症児の予後を良好にする重要な要因と思われる。また、発達改善を可能にする固体側の要因も幾つか考えられる。4人に共通していたことは、自閉症と診断された時期でも自閉的な孤立状態はそれほど強くなく、親に対する愛着行動は多少とも認められ、他者の介入を受け入れる余地が残されていたことである。また、話し言葉を獲得する前の視覚的に状況を理解する能力は良好で、話し言葉を獲得した時期も概ね3歳頃であり、全般的な脳機能障害の程度は軽度であったと言える。
・療育場面では、どのようにして自閉的防衛から子どもたちを解放して、情愛溢れる人間的関係を築くかが大きな技術的課題となる。基本的に言えることは、できるだけ子どもたちにとって受け入れやすい「遊び」を用いて快的な情動を共有することによって私たちがこどもたちにとって安全な存在であることを気づかせることである。これは言葉で言うほど簡単なことではない。時には、こどもの目線に立ってこどもが一人で遊び興じる世界に踏み込むことも必要だし、私たちの世界に入ってくることを恐がるこどもにしっかりと寄り添って一切の不安を吹っ切ってあげるような逞しさも必要である。こうすることを繰り返す中でしっかりとした信頼感がこどもと親や療育者の間にしっかりと出来上がってくると、必ず自閉性は薄れ自己認識が芽生えるのである。その後は、子どもたちは自分にとって重要な存在である他者から取り入れと同一化を繰り返し、さまざまなことを学んでいくことになる。そのためには、自己認識が芽生え他者への興味関心が広がってきた時期には、出来るだけ早く健常児集団との交流を図る必要がある。健常児との交流によって社会的スキルが体験習得され、より豊かな情緒的体験を積み重ねることができるからである。
・自閉症早期療育の基本
1.出来るだけ早期、遅くとも3歳前に療育が開始されること。
2.積極的に情緒豊かに接し、人との関わり合いの本来的な楽しさや面白さを伝える療育。
3.自閉症児の興味関心への偏り(こだわり)は対人不安や恐怖に対する防衛であることを理解した療育。
4.比較的早い段階で健常児との交流を図り、社会的スキルを体験習得させる療育。